Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 第8回(2010度)部会賞 贈賞報告

    2011.5.10 コメント無し

     

    表彰小委員会委員長 笠原 文雄(原子力安全基盤機構)

    選考経緯

    部会メーリングリストおよび部会ホームページを通して、本年度部会賞候補者の募集を平成22年12月17日(金)締め切りで行いました。その結果、部会功績賞、部会業績賞、部会CG賞、部会奨励賞、部会学生優秀講演賞に複数名の推薦がありました。

     

    平成23年1月24日(月)に表彰小委員会を開催し慎重に審議致しました。その選考結果を運営小委員会に諮り、最終的に、部会功績賞1件、部会業績賞1件、部会CG賞2件、部会奨励賞2件、部会学生優秀講演賞3件を決定しました。その結果は以下の通りです。

     

    部会功績賞

    計算科学技術分野において幅広くかつ顕著な貢献のあった個人を対象とし、毎年1名以内とする

    受賞者名:岡 芳明(おかよしあき) 氏(早稲田大学共同原子力専攻教授)

    業績名 :「計算科学技術を用いたスーパー軽水炉とスーパー高速炉の設計に関する研究」
    (英訳)Design Study on Super Light Water Reactors and Super Fast Reactors Using Computational Science and Engineering

    贈賞理由:
    岡芳明氏は、超臨界圧水を冷却材として用いる新型発電用原子炉であるスーパー軽水炉とスーパー高速炉の概念を提案し、それらの設計研究を積み重ねてきた。この原子炉は第四世代原子炉の1つに選ばれ、現在では我が国のみならず米国、カナダ、欧州、中国、韓国でも研究開発が進められている。設計研究には主に計算科学技術を用いており、炉心・燃料、制御、起動、安定性、安全系設計、安全解析、プラント熱効率、確率論的安全評価などの課題に対して、独自に開発した多数のシミュレーションコードを駆使して幅広く研究した。いわゆるDesign by Analysisを実践して日本発の新型炉の概念を構築したといえる。こうした成果を中心に、これまで原著論文136編、国際会議発表論文195件、著書9冊を発表しており、2003年には日本原子力学会論文賞・特賞を受賞した。さらに、2010年にはスーパー軽水炉およびスーパー高速炉の設計研究の集大成ともいえる書籍をSpringerより出版している。このように岡芳明氏の原子力計算科学技術分野における学術的な業績は極めて高い。  また、東京大学において長年教育に従事し、研究活動などを通じて多数の後進を育成した。特に、教科書として1987年に「原子工学概論」、2008年に「原子炉動特性とプラント制御」、2009年に「原子力プラント工学」をコロナ社より出版しており、教育における貢献も多大である。  さらに、2004年度の計算科学技術部会の部会長として、部会の発展を支えた。他にも、米国原子力学会理事(2001-2004)、日本原子力学会副会長(2006-2008)、同会長(2008-2009)と重職を歴任している。

     

    部会業績賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:吉村 忍(よしむらしのぶ) 氏(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授
    業績名 :「大規模並列計算力学システムの開発と原子力構造安全性向上への適用」
    (英訳)Development of Parallel Computational Mechanics System for Large Scale Problems and Its Application to Improvement of Structural Safety of Nuclear Facilities

    贈賞理由:
    吉村忍氏は、これまでに査読付きジャーナルに189報(国際ジャーナル93報、和文ジャーナル96報)のオリジナル論文と解説論文49報、編著書4件を著している。その研究分野は、構造力学・材料力学を中核として、大規模並列解析・連成解析、逆解析、設計工学、確率論的破壊力学等の広範な分野に及ぶ。 全体貫く特筆すべき顕著な研究業績として、計算力学、知的情報処理及び高速計算技術を統合化したハイパフォーマンス知的シミュレーション手法(High-Performance and Intelligent Simulation)を確立し、上記分野の様々な問題へ適用し、実用レベルの有効性を実証してきたことが挙げられる。特に、以下の原子力構造健全性・安全分野において顕著な業績を挙げている。 (1) 大規模芸列構造解析と原子炉の耐震解析分野の業績 (2) 確率論的破壊力学と原子炉保全戦略分野の業績

     

     

    部会CG賞

    原子力の計算科学技術分野において結果の表示・可視化について優秀な業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:小瀬  裕男(おせやすお) 氏 (京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻)
    業績名 :「サブクール・プール沸騰における伝熱面からの気泡離脱挙動に関する数値シミュレーションと可視化」
    (英訳)Numerical simulation and visualization on bubble departure behavior from heated surface in subcooled pool boiling

    贈賞理由:
    小瀬裕男氏は、飽和温度に満たないサブクール条件下で発生する「サブクール沸騰」を対象とし、数値解析によってサブクール沸騰時の伝熱特性やその詳細なメカニズムを検討するための沸騰・凝縮モデルの構築を行い、原子炉内で発生しているような沸騰二相流挙動に対して、経験式を伴わない高精度な予測手法の開発を目的とする研究を行ってきた。特に本題目では、伝熱面からの気泡離脱挙動に着目した数値シミュレーションを実施し、その結果を可視化することによって、別途モデル検証用に実施された可視化実験結果と直接的な比較検討を可能とした。その結果、可視化実験で特徴的に観察された気泡離脱挙動を数値シミュレーションによって再現可能であることを本手法により明らかにした。また、実験的に計測することが困難である気泡内およびその周囲の詳細な速度ベクトルや温度場の3次元時系列データを、本数値シミュレーションおよびその可視化によって取得可能となったことは、今後の沸騰研究に対する様々な未解決問題の現象解明につながる大きな前進になったといえる。

     

     

    受賞者名:田中  正暁(たなかまさあき) 氏 (日本原子力研究開発機構次世代原子力システム研究開発部門)
    業績名 :「高速炉配管内非定常熱流動現象における数値解析による大規模渦構造の可視化」
    (英訳) Visualization of large scale eddy structure in unsteady flow in FBR piping systems by numerical simulation

     

    贈賞理由:
    田中正暁氏は、複雑形状に対応できるLESをベースとする流体-構造連成解析コードを自ら開発するとともに、その解析コードをナトリウム冷却大型高速炉の設計課題である高サイクル熱疲労評価や流力振動現象評価に適用、CGを駆使することにより流れ構造を解明し、乱流混合と構造材の応答挙動、圧力振動メカニズムを明らかにした。特に後者は、レイノルズ数107を超える大口径配管ショートエルボ内流れを対象としたもので、従来の実験データは皆無に等しくまた新たなデータ取得も困難な領域であったが、まさに計算科学およびCG技術の開発・適用で、非定常現象を引き起こす馬蹄状の3次元大規模渦構造の存在を示し、実験では解明不可能な変動発生メカニズムを明らかにした。これらの研究成果は、現在国家プロジェクトとして進められている高速炉実用化設計研究に大いに貢献しており、また、他の分野の共通課題に対しても応用が可能なものである。

     

     

    部会奨励賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった40才まで(平成23年3月31日において)の個人を対象とし、毎年3名以内。

    受賞者名:宮村 浩子(みやむらひろこ)  氏 (日本原子力研究開発機構システム計算科学センター高度計算機技術開発室)
    業績名 :「大規模時系列データの総覧可視化技術」
    (英訳)A Technique for Overview Visualization of Time-series Datasets

    贈賞理由:
    宮村浩子氏は、原子力施設全体を対象とした耐震シミュレーションや核融合炉内プラズマの挙動を詳細に解析する核融合炉統合シミュレーション等、原子力研究を支える先端的大規模シミュレーションや、J-PARCやJRR-3等の原子力実験施設を用いた実験から生成される実験データから、解析すべき領域を一目で把握できる特徴抽出技術を提案し、解析作業の効率化に大きく貢献した。 近年、計算機の性能向上に伴い、原子力分野のシミュレーションや実験施設から生成されるデータは大規模化・複雑化の一途をたどっており、テラバイト規模のデータが生成されるようになってきている。このような大規模・複雑データの解析には、データを可視化してその特徴を認識・把握することが一般的である。しかし、画面に表示できる情報は、解像度の問題から高々メガバイト程度に限られてしまうことから、テラバイト規模のデータの特徴を把握するには可視化作業を何度も繰り返す必要があり、作業に時間を要している。特に原子力分野の複雑なシミュレーションや実験では、原子力施設全体のどの部分に応力が集中するかなど、解析者があらかじめ想定することが困難な領域で重要な現象が発生することがあることから、全てのデータを詳細に解析する必要があり、作業の長時間化が深刻である。宮村氏はこの問題に対して、大規模・複雑データ全体から解析すべき特徴領域を抽出し、一目で把握できる概要可視化技術と、特徴領域の詳細な解析を支援する従来の可視化技術を組み合わせた新しい可視化解析手法を提案した。

     

     

    受賞者名:鵜沢 憲(うざわけん) 氏(日本原子力研究開発機構システム計算科学センター高度計算機技術開発室) 業績名 :「「原子力施設の耐震評価に向けた気液二相乱流シミュレーションのためのOpenFOAMの改良」
    (英訳) Improvement of OpenFOAM for turbulent two-phase flow simulation in nuclear power plants toward seismic evaluation

    贈賞理由:
    鵜沢憲氏は、原子力施設の耐震評価のための運転状態や過渡事象を精緻に分析するための気液二相乱流の特性シミュレーションを可能とするため、オープンソースである流体コードOpenFOAMをスパコン等で活用できるように大規模並列化の改造を行うとともに、その未整備部分を明らかにし、スパコン上での改訂版の動作保証と検証をした。OpenFOAMの改善では、 ① MPI化を実装し、大規模並列処理可能なコードに仕立て、原子力機構に導入されている日本最速レベル(平成22年10月末現在)のスパコンBX900の任意のコア数での動作検証を行い、その実行性能を確認した。 ② マニュアルには記載されているものの、レイノルズ応力モデルの一つ(Launder-Reece-Rodi(LRR)モデル)の実装が不完全であることを明らかにし、その修正を行うとともに演算精度や現象再現性等の確認と検証を行い、機能向上を行った。 この結果、BX900のメモリを最大限活用可能な規模(50テラバイト規模)の気液二相乱流の特性シミュレーションの利用を可能とした。また、CFDのフォーラム(CFD Online)に対して、OpenFOAMへレイノルズ応力モデルを実装し、大規模計算機環境を利用して数値実験した結果についての知見を還元した。

     

     

    部会学生優秀講演賞

    計算科学技術分野において、他の模範となる講演を行った学生を対象とし、毎年4名程度とする

    受賞者名:Xiong, Jinbiao (しょんじんびお)  氏 (東京大学大学院博士課程) 業績名 :「配管減肉における液滴衝撃エロージョンの粒子法シミュレーションに関する研究」
    (英訳)Particle Simulation of Liquid Droplet Impingement for Pipe Wall Thinning

    贈賞理由:
    Xiong Jinbiao氏は、東京大学大学院博士課程に在籍し、原子力プラントの配管減肉を引き起こす液滴衝撃エロージョン(Liquid Droplet Impingement, LDI)のシミュレーションに関する研究をおこなった。粒子法を用いて単一液滴が配管内壁に高速で衝突する現象を解析したところ、液滴内に衝撃波が発生することで、内壁表面に数百MPsの高い圧力が発生するという知見を得た。実験や理論的な相関式とも定量的に良く一致した。さらに、液滴径の影響、内壁表面に液膜が存在する場合、および液滴が斜めから衝突する場合についても定量的に評価した。本研究で用いられたシミュレーション手法は、粒子法によって自由表面の大変形を伴う流体挙動を圧縮性も考慮して解析するものであり、先端的である。また得られた成果は、LDIによる減肉のメカニズムをシミュレーションによって解明するという点で独創的である。さらに、実プラントのLDIによる配管減肉を定量的に予測するシステムの一部を構成しており、実用的な観点からも優れている。

     

     

    受賞者名:下川辺  隆史(しもかわべたかし) 氏 (東京工業大学大学院総合理工学研究科)
    業績名 :「非静力学モデルによる気象計算の複数GPUを用いた大規模計算」
    (英訳)Large scale multi-GPU computing of a non-hydrostatic numerical weather simulation

    贈賞理由:
    下川辺隆史氏は、気象庁が次期気象予報に向けて開発を進めている非静力学平衡モデルを採用した気象計算コードASUCAに対し、ペタフロップ、ポストペタフロップス・スパコンの中心的アーキテクチャになると言われているGPU (Graphics Processing Units) アクセラレータを用い、世界に先駆けフル GPU 計算に成功した。GPU上で効率良く計算を実行させるために、Fortranで書かれた膨大なコード全体をGPU用言語CUDAに書き換え、GPUに適したさまざまなアルゴリズムや新しい計算手法を導入することで、東京工業大学のスパコンTSUBAME 2.0の3990 個のGPU を用いて145.0 TFlops という極めて高い実行性能を達成した。HPCの主要分野である気象の現業を目的としたコードに対し、GPUによる大規模計算の有用性を示したもので、その意義は非常に大きい。国際会議SNA+MC2010における講演でも、これらの研究成果の発表を行い、Student Awardを受賞した。

     

     

    受賞者名:斎藤 誠紀(さいとうせいき) 氏 (名古屋大学大学院工学研究科)
    業績名 :「二体衝突近似シミュレーションと分子動力学シミュレーションのハイブリッドコードの開発」
    (英訳)Development of Hybrid Code of Binary-Collision-Approximation-Based Simulation and Molecular Dynamics Simulation

    贈賞理由:
    斎藤誠紀氏は、プラズマ―壁相互作用の解明のため、サブマイクロメートルスケールの材料を扱う新しいシミュレーション技法を開発した。分子動力学法は、プラズマ―壁相互作用の解明のための有力なシミュレーション技法のひとつであるが、計算時間の問題からナノメートル・ナノ秒程度の比較的小さな系に適用されることが一般的となっている。核融合実験装置のダイバータ板には多結晶グラファイトが用いられることが多く、多結晶グラファイトの構造を取り入れたサブマイクロメートルスケールの大きな系を扱うシミュレーションが必要となっていた。斎藤氏は、分子動力学シミュレーションと二体衝突近似シミュレーションを組み合わせることで、サブマイクロメートルスケールの材料を扱うシミュレーションに成功した。この新しいシミュレーション技法はプラズマ―壁相互作用の研究に大きな影響をあたえると思われる。 また、斎藤氏は、国際会議SNA+MC2010においてこの研究を発表し、Student Awardを受賞した。

     

     

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