Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 2011年秋の大会における合同企画セッションの報告

    2011.10.2 コメント無し

    日本原子力学会2011年秋の大会2日目の 9月20日(火) 13:00〜14:30 において,計算科学技術部会と熱流動部会合同セッション「軽水炉分野におけるモデリング&シミュレーションの国際情勢と我が国の課題」が開催されました。ここでは,当日の様子について概要を報告いたします。(写真はクリックすると拡大します。資料はリンクからダウンロードできます。)

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    座長の山口部会長から挨拶があり,軽水炉分野のM&Sに関する課題抽出と今後の方向性の検討のため,本セッションでは4件の講演後に会場全体でのディスカッションを期待する旨の説明がなされました。

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    本セッションには,計算科学技術をどのように原子力の研究開発に役立てていくのか?というテーマが根底にあり,福島第一原子力発電所の事故の後にシビアアクシデント解析・予測に対して高い関心がもたれている中で,会場には多くの聴衆が集まり,講演後にも多くの意見が出されました。

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    (1) 中国と韓国の情勢 (JAEA)中村秀夫氏

    安全解析分野における韓国と中国の状況に関してについて,両国における研究開発の体制やその特徴について,韓国では産官学で役割分担し,危機感をもって相当のリソースを投入して計画的に研究開発を進められていること,中国は2010年現在の日本に類似した状況下において,新しい研究開発機関を組織し,韓国に倣ってコード開発に注力している状況について詳細に説明がなされました。

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    (2) 米国と欧州の情勢 (テプシス)堀田亮年氏

    科学的合理性に立脚したモデリング&シミュレーション(M&S)によるアプローチを確立し,それらが示す事柄を客観的事実に基づき受容していくサイエンスベースの姿勢がこれまで以上に重要であり,物理モデルや大規模計算機の開発のみならず実験データベースや不確かさを理論をも一体となって発展させるべく,国や組織の枠を超えた連携を必要とするレベルに到達しているとの解説がなされました。

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    (3) 実験データを戦略的知的財産に (東大)岡本孝司氏

    原子力大綱への提言として,社会ニーズの明確化と方向性の明確化の一つとして,モデリング・シミュレーション技術の高度化を挙げ,その中でも独自シミュレーションコードの開発と検証用精度保証付き実験データを我が国の戦略的知財として保有することが重要であることが説明されました。特に,境界条件が明確で追試可能な高次の実験が,CFD検証用の実験データとして非常に有効であることが指摘されました。

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    (4) 今後の安全評価要件と国産の安全解析コードの役割 (JNES)宇井 淳氏(笠原文雄氏による代理発表)

    海外の規制の潮流や福島事故の教訓を踏まえ,想定事故の範囲の拡大とその評価のための解析コードの必要性が高まる状況において,システム解析コードは熱水力試験やスケーリングの検討等の主要な反映先であると同時にその国の安全評価能力が技術力を示す一つの尺度であり,システム解析コードを戦略的に開発する必要があることが指摘された。

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    山口部会長によりM&Sに関する論点について整理された後,全体でのディスカッションに移り,会場からは活発に意見が出されました。

    『規制の近代化が必要。コードに限らず,規制や技術標準の制定が無しに,様々な議論は困難。』『福島事故の背景には,改善が回っていなかったことがある。古いコードが未だに使われ,新しいコードの導入のハードルは極めて高い。』『コード作成自体も大切だが,国際的に認証されることが重要』『コード開発には,初期からユーザを巻き込むことが必要。また,産業界には既にノウハウがあり,それとどのように折り合うかが難題』『作成したコードが許認可されることが大前提。JAEAが中心となって国策として実施することが必要』『コードはユーザフレンドリーであることが重要あり,韓国ではしっかりと考えられている。最後に誰が使うかということを念頭にして開発を行う必要がある。』

    最後に山口部会長から,『日本は何を目標とするのか?現時点で明確に言える人はいないが,それを見い出す必要がある。』と締めくくられました。

    短い時間の中では結論は出ませんでしたが,軽水炉分野におけるM&Sの議論に関して,一石を投じることができたのではないでしょうか。今後も本部会における活動を通じて,さらなる議論を展開していきたいと考えます。

    なお,同日の夕刻に開催された懇親会では,このテーマに関して熱い議論が展開されたことを追記しておきます。

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