Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 2012年春の年会における合同企画セッションの報告

    2012.4.24 コメント無し

    日本原子力学会2012年春の大会3日目の 3月21日(水) 13:00〜14:30 において,計算科学技術部会と熱流動部会合同セッション「我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後」が開催されました。当日の様子について概要を報告いたします。(資料はリンクからダウンロードできます。)

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    座長の岡本東大教授から挨拶があり,本セッションでは3件の講演がある旨の説明がなされました。

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    本企画セッションには,計算科学技術をどのように原子力の研究開発に役立てていくのかというテーマが根底にあり,シビアアクシデント解析・予測に対して高い関心がもたれている中,多くの聴衆が集まり,講演後にも多くの意見が出されました。

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    (1) 我が国のシビアアクシデント対策の変遷 (東京大学) 西脇由弘氏

    福島事故が起こった背景,要因を考える必要があり,それを踏まえた上で未来への提言が行われた。

    1.AMをめぐるこれまでの議論について

    二段階審査となった背景,TMI事故やチェルノブイリ事故以降の安全審査における日米の対策の差異,90年代における日本のアクシデントマネジメントに対する意識の風化と米国の潮流からの乖離等について歴史的な流れが説明された。その上で,日本における確率論的安全評価への対応の遅れや一貫性の無さが事故が起こった一つの要因であり,また,保安院とJNESの関係についても様々な問題を有していることが指摘された(例えば,規制実施機関と専門性集団の連携不足)

    2. 環境省原子力規制庁の考慮事項について

    福島の事故で明らかになったことは,日本の規制組織(体系)とそれを支援する各団体の構成(枠組み)に問題があるということであり,緊急時対策も不十分で規制機関に専門性が欠けていた事が指摘された。その上で,今後日本の規制を変えるためにどのようにすべきか(どのようなメンタリティを持つべきか)について述べられた。

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    (2) 我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後 (エネルギー総合工学研究所) 内藤正則氏

    我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後について俯瞰する内容での講演がなされた。まず,シビアアクシデントの定義から始め,日本ではアクシデントマネジメントは電力会社の自主的な対応が期待されており,規制的措置としては要求されていない事をについて指摘があった(外国では規制要求となっている)。また、安全研究の歴史を概観して,日本のSAFE Projectは世界的に見ても先駆的な研究であったが徐々に下火になったという経緯がったことが指摘された。(安全研究は後ろ向きであり,国民の不安をあおり,原子力のアクセプタンスに有害であるという考え方が産業界に多かったためと解説) 事故解析コードの開発は概して欧米では積極的に行われ,日本で開発されたものはTHALES(JAEA)やSAMPSON(NUPEC→エネ総研)がある。1つの問題点として,特定の解析項目が未知である場合に解析条件等の設定をどうすべきかという問題が残る。さらに,これまでの解析コードで福島事故を再現できるかというと難しく,モデル追加あるいは改良を要する部分があると指摘している。また,安全解析コードに含めるかどうかは別として,海水中のNaCl溶融によるアルカリ腐食の問題,および再臨界の可能性について,それが評価できる解析コードの不在を指摘した。

    「SAMPSONコードが使われなくなった経緯は?」との質問に対し,「発電所の裕度を確認するために整備したコードであり,その目的が達成された段階で整備は実質的に終了していた。コードの保守改良が必要であるが,それに対する予算はなく,自主的な対応とせざるをえなかった。福島の解析も十分ではないと認識している。」との回答があった。

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    (3) 軽水炉シビアアクシデント評価技術の課題 (大阪大学) 片岡 勲氏

    シビアアクシデントの基本的な物理メカニズムの理解とモデル化はこれまである程度適切に行われており,福島事故の進展も想定していた通りであった。特に,燃料溶融前後までの現象については,既存コードにて解析可能である。しかしながら、個別の炉についてシビアアクシデントがどのように進むのか、またどの現象が起きて,どの現象が起きないのか評価するには十分ではない。 例えば,燃料棒ヒートアップ挙動については,ギャップコンダクタンスやZr-水反応モデルにおける感度が大きく,炉心の崩壊熱の正確な評価に対してはモデル化の一層の高度化が必要である。また,溶融デブリの冷却メカニズムの把握とモデル化,ソースターム評価において燃料内FPの放出挙動の把握とモデル化等が重要重要である。さらに,デブリ・コンクリート反応挙動や水素燃焼挙動の様に,ある程度の現象把握はできているがまだ分からない機構もある。現状として,個別の現象については評価する技術はあったが,全体的な予測ができないというレベルである。今後は,現象解明にむけて研究とスケーリングが重要である。

    「どのような実験を行うべきか,解析側との協議が必要である。」や「複雑な現象であり精度を上げることが困難な場合がある。」等のコメントに対し「PIRTを作ることが重要。また,V&Vが必要である。」とコメントがあった。

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    短い時間の中で議論は尽きませんでしたが,軽水炉シビアアクシデント評価技術に対する問題点の現時点での総括という意味において,一石を投じることができたのではないでしょうか。今後も本部会における活動を通じて,さらなる議論を展開していきたいと考えます。

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