Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 第11回(平成25年度)部会賞 贈賞報告

    2014.4.21 コメント無し

    第11回(平成25年度)部会賞 贈賞報告

    表彰小委員会委員長 越塚誠一(東京大学大学院)
    選考経緯

    部会メーリングリストおよび部会ホームページを通して、本年度部会賞候補者の募集を平成25年12月27日(金)締め切りで行ないました。その結果、部会功績賞、部会業績賞、部会CG賞、部会奨励賞、部会学生優秀講演賞に複数名の推薦がありました。
    推薦者の推薦書、業績(論文、予稿、部会のセッションでの聴講者の評価シート等)をまとめ、平成26年2月18日(火)に表彰小委員会を開催し慎重に審議致しました。その選考結果を同日開催された部会運営委員会にお諮りし、最終的に、部会功績賞1件、部会業績賞1件、部会CG賞2件、部会奨励賞3件、部会学生優秀講演賞2件を決定させていただきました。その結果は以下の通りです。

    部会功績賞

    計算科学技術分野において幅広くかつ顕著な貢献のあった個人を対象とし、毎年1名以内とする

    受賞者名: 功刀 資彰 氏(京都大学大学院)

    業績名 :「原子力工学における熱流動の計算科学技術に関する卓越した研究成果及び計算科学技術部会への貢献」
    (英訳)Excellent Research Activities on Computational Science and Engineering of Nuclear Engineering Thermal-Hydraulics and Contribution to CSED

    贈賞理由:

    刀資彰氏は、長年にわたり原子力工学における熱流動の計算科学技術に関する卓越した研究成果を数多く挙げてきているだけでなく、日本原子力学会計算科学技術部会においても2007年度の部会長を務めるなど大きな貢献をしてきたので、部会功績賞を受賞するにふさわしい。

    功刀資彰氏の研究成果は、高温ガス炉に関する熱流動の研究、核融合炉に関する熱流動の研究、自由表面流れの計算手法、MARS法の提案、沸騰現象の詳細解析、高速増殖炉におけるガス巻き込みなど多岐にわたっている。

    以上の理由から部会功労賞を贈呈することを決定した。

     

    部会業績賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:内田 俊介 氏(日本原子力研究開発機構)

    業績名 :「粒子法に関する研究とその計算科学技術への展開」
    (英訳)Studies of Computational Science and Technology in Water Chemistry

    贈賞理由:

    内田俊介氏は、長年にわたり水化学の研究を先導してきた。特に原子力プラントの配管の健全性にとって重要な流れ加速腐食(FAC)および液滴衝撃エロージョン(LDI)に関し、計算コードシステムを用いて予測する手法を開発した。その成果は、水化学と熱流動の複雑な連成問題を計算科学技術を用いることで解くものであり、先端的である。

    こうした成果は、日本原子力学会論文集英文誌等に論文として多数が掲載されている。また、日本原子力学会の大会において、計算科学技術部会の一般セッションで継続的に発表されており2007秋の大会から現在まで合計38件にのぼる。また、2007年6月に新たに発足した水化学部会の初代部会長も勤められており、最近では日本原子力学会論文集英文誌に水化学に関するレビュー論文を書いている。

    このように内田俊介氏は水化学の分野における著名な研究者であるだけでなく、計算科学技術を水化学の分野に取り入れ、V&Vについても積極的に適用し、水化学および計算科学技術の発展に多大な貢献をおこなっている。

    以上の理由から部会業績賞を贈呈することを決定した。

     

    部会CG賞

    原子力の計算科学技術分野において結果の表示・可視化について優秀な業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:河村 拓馬 氏(日本原子力研究開発機構)

    業績名 :「粒子ベースボリュームレンダリングに基づく遠隔可視化技術の開発」

    贈賞理由:

    候補者は、PBVR(粒子ベースボリュームレンダリング)と呼ばれる透過的可視化手法の分散並列処理技術を考案してクライアント・サーバ型の遠隔可視化ソフトウェアを開発し、原子力分野の大規模3次元シミュレーションを膨大な計算データを転送することなく対話的に可視化する技術を確立した。この技術を1億自由度規模の原子力施設の耐震シミュレーション結果に適用し、従来の商用可視化ソフトウェアに比べて飛躍的に高速な可視化解析に成功した。

    近年、計算機の性能向上に伴い、原子力分野のシミュレーションから生成されるデータは大規模化・複雑化の一途をたどっており、数十〜数百テラバイト規模のデータが日常的に生成されるようになってきた。従来の可視化手法では①スーパーコンピュータから計算データを転送してユーザ端末上で可視化処理、②スーパーコンピュータ上で可視化処理を行い画面のピクセルデータを転送してユーザ端末上に表示、③スーパーコンピュータとユーザ端末の間でポリゴンデータを転送するクライアント・サーバ型の遠隔可視化処理といった3つのアプローチが主に用いられてきた。しかしながら、①はデータ転送速度、ユーザ端末処理性能が大幅に不足、②は画像の回転、拡大・縮小等の対話的な操作が困難といった問題に直面しており、③についてもポリゴンデータが計算データと同様に大規模化することから、①と同様の問題が発生している。

    候補者は、上記の問題を解決する方策としてPBVRの可視化用粒子データによるデータ圧縮に着目して③のクライアント・サーバ型可視化処理を飛躍的に高速化することに成功した。PBVRでは3次元スカラーデータを物理値によって決まる色と不透明度の粒子集団によって表現するが、表示する画像の解像度(画素数)によって決まる粒子データサイズは最大でも100MB程度となることから、GB以上の大規模データに対して大きなデータ圧縮が期待できる。この点に着目してPBVRをサーバ上の粒子データ生成処理とクライアント上の粒子データ描画処理に分離し、圧縮された粒子データを転送することで、上記のボトルネックを解消した。数値実験の結果、計算データを転送してから商用可視化ソフトウェア(AVS)で処理する従来の手法、あるいは、既存の商用クライアント・サーバ型可視化ソフトウェア(Ensight)を用いる場合に比べて数十倍高速な可視化処理性能、および、対話的な画像操作を可能にする描画速度(30フレーム/秒)を実現することに成功した。

    候補者の提案した技術は汎用性が高く、耐震シミュレーションのような大規模有限要素解析だけでなく、プラズマシミュレーションや燃料溶融複雑系シミュレーションといった大規模流体解析への適用事例も示しており、候補者が開発した技術は今後の原子力分野の計算科学において大きな役割を果たすことが期待できる。

    以上の理由から部会CG賞を贈呈することを決定した。

     

    受賞者名:竹島 由里子 氏(東北大学)

    業績名 :「構造解析のためのオントロジーに基づいた協調可視化環境の開発」

    贈賞理由:

    本研究は、数値計算や計測などによって得られた数値データを視覚的に解析する可視化処理全般を支援・管理する環境の開発を目的としている。現象の解析を行う研究者は、可視化処理の専門家ではないことが多く、可視化処理に要する手間は最小限にしたいという要望は少なくない。また、可視化処理結果は、画像としてのみ保存されていることが多く、再現性に乏しい。本研究で提案された環境では、これらの問題を解決するため、対象データの特性と可視化目的に応じて、適切な可視化技法を提示し、それを用いた可視化結果を自動的に表示する。また、可視化パラメタ値の変更などの可視化処理の履歴を一括管理する環境を兼ね備えている。本提案環境により、構造解析分野における可視化処理に要する負荷の削減、新規の可視化結果の獲得による新たな知見の導出、データの再利用可能性による研究効率の向上などが期待できるといえる。

    以上の理由から部会CG賞を贈呈することを決定した。

     

    部会奨励賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった40才程度まで(平成23年3月31日において)の個人を対象とし、毎年3名以内。

    受賞者名:沖田 泰良 氏 (東京大学)
    業績名 :「超音波信号変化から照射下微細組織を評価する材料劣化診断シミュレータの開発」
    贈賞理由:

    沖田泰良氏は.原子炉構造材料として使用されるオーステナイト鋼を対象として、ボイド,転位,析出物等の照射環境で形成する微細組織と超音波の相互作用を定量化し、それに基づいて信号変化から微細組織・照射劣化を評価するシミュレータの開発を行った。超音波試験は、従来からき裂探傷に用いられてきた技術であるが、本シミュレータを併用することにより、き裂の有無に加えて、き裂発生前の材質変化を捉えることも可能となると考えられる。

    本研究は、分子動力学法や有限要素法等、複数の計算手法を適融合させることにより進められており、計算技術の発展にも多大なる貢献が見られた。また、本研究は、計算科学技術を利用し原子炉の安全性と経済性を同時に高める研究であると同時に、既存軽水炉,次世代原子炉等、広範な適用が考えられる。

    尚、本研究は、2013年8月国際会議SMiRT22にて発表し、世界的にも注目度が高かった。

    以上の理由から部会奨励賞を贈呈することを決定した。

     

    受賞者名:羽間 収 氏 (伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)
    業績名 :「有限要素法による3次元全自動き裂進展解析システムの開発」
    贈賞理由:

    羽間収氏は、原子力機器を中心とした溶接部などを含む3次元構造物中のき裂進展解析を自動化するシステムを開発し、その妥当性を示している。溶接部という複数の物性が関わり、かつ幾何学的にも複雑形状をしている部位におけるこれまでのき裂進展解析の困難を克服し、全自動での3次元解析を実現し有用な成果を得つつある。溶接部のき裂進展感受性、残留応力等を考慮しながら、3次元FEMメッシュを自動更新することにより、き裂進展解析を全自動化したシステムは、おそらく世界初と思われる。

    以上の理由から部会奨励賞を贈呈することを決定した。

     

    受賞者名:Guo Liancheng 氏 (九州大学)
    業績名 :「炉心損傷事故における堆積デブリのセルフ・レベリング挙動評価手法の開発」
    贈賞理由:
    Guo Liancheng氏は、文部科学省原子力システム研究開発事業「炉心損傷時の炉心物質再配置挙動評価手法の開発」(研究代表機関:日本原子力研究開発機構、研究期間:平成22〜25年度)に再委託機関(九州大学)の研究者(学術研究員)として参画している(平成22年10月〜平成26年3月)。この研究開発事業において受賞候補者は、ナトリウム冷却型高速炉における炉心損傷時の炉心物質再配置挙動で重要な堆積デブリの自己平坦化(セルフ・レベリング)挙動について、炉内構造設計及び安全評価に適用可能な評価手法の開発を進めた。セルフ・レベリング現象は、主として燃料とスティールの固体デブリ、液体ナトリウムとその蒸気が混在し流動化する相変化を伴った多成分多相流の熱流動現象である。このため受賞候補者は、流体力学計算に多流体モデルを採用する高速炉安全解析コードSIMMERの解析手法を用い、固体デブリ間の機械的相互作用を個別要素法(DEM)によって解析するオイラー/ラグランジェ法に基づくハイブリッドコードを開発した。本手法は、炉内構造物局所のセルフ・レベリングによる堆積デブリの運動挙動を物理現象に基づいて高精度で解析し、その挙動に介在するメカニズムを詳細にシミュレーションすることが可能である。これにより、初期条件として任意に与られた堆積デブリの粒径やポロシティ、堆積デブリの厚みや勾配等に対する三次元的なセルフ・レベリング挙動を適切に模擬し、炉内構造設計及び安全評価に適用できる手法の基盤技術を整備するとともに、セルフ・レベリング挙動に関連する既往試験データを利用することで手法の妥当性を検証した。受賞候補者が開発したオイラー/ラグランジェ解析手法は、高速炉安全解析の標準コードであるSIMMERの適用範囲を大幅に広げる基礎技術として重要なものである。

    本研究開発の成果は、軽水炉も含めた炉心損傷事故時の熱流動解析だけではなく、他の産業分野における多相流解析にも応用できる適用範囲の広い計算科学技術であり、部会奨励賞に十分値する業績と考えられる。尚、本研究業績は、上述の原子力システム研究開発事業における成果として、本会が主催するNTHAS8(2012年)、「2013年春の年会」及び「2013年秋の大会」において口頭発表された。

    以上の理由から部会奨励賞を贈呈することを決定した。

     

    部会学生優秀講演賞

    計算科学技術分野において、他の模範となる講演を行った学生を対象とし、毎年4名程度とする

    受賞者名:浅利 圭亮氏 (東京大学)
    業績名 :「照射誘起微細組織に基づいた原子炉構造材照射劣化予測に関する研究」
    贈賞理由:

    浅利圭亮氏は、オーステナイト鋼を対象として、原子炉供用環境下で形成するミクロ組織と機械的特性変化の関係を記述するモデル構築を行ってきた。特に、オーステナイト鋼の特徴的な物性である低積層欠陥エネルギーに着目して、米国著名研究者との共同研究により原子間ポテンシャルを開発し、またそれを用いて網羅的な分子動力学計算を行ってきた。これにより、照射誘起微細組織としてのボイド、転位ループ等から照射硬化を予測する手法を構築し、この手法と非破壊検査を融合させることにより、構造材料健全性評価の高度化に資すること技術を提案した。これらの成果は、世界的にも極めて評価が高く、今後益々の研究の発展が期待される。

    以上の理由から部会学生優秀講演賞を贈呈することを決定した。

     

    受賞者名:後藤 和哉 氏 (東京大学)
    業績名 :「大規模アセンブリ構造解析のための反復法線形ソルバの研究」
    贈賞理由:

    構造解析の分野では年々大規模な解析が可能となってきているが、工学の実機の状況において、構造物は複数の部品を組み合わせたアセンブル構造であり、それらの接触状態を考慮したうえで、応力解析や振動解析をしなければならない。後藤和哉氏は、昨年8月にアメリカ、サンフランシスコにて開催されたSMiRT-22において、大規模アセンブリ構造解析および大規模接触解析のための反復法線形ソルバの適用に関する発表を行った。この研究では、ラグランジュ未定乗数法を用いた大規模構造接触解析に対し、拘束条件に対応する自由度を効率的に除去し、さらに並列化を実施することで、反復法線形ソルバの適用性を広げることに成功した。また、この講演では聴衆との議論も活発に交わされ、研究成果に注目が集まった。

    以上の理由から部会学生優秀講演賞を贈呈することを決定した。

    Comments are closed.