Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 【報告】日本原子力学会2013年秋の大会 企画セッション報告

    2013.10.11 桐村 コメント無し

     

    2013年9月5日(木) 13:00~14:30 K会場 (教養棟旧館211)

    「地震動シミュレーションと構造評価手法の現状とその適用」

    座長 中島 憲宏(JAEA)

    (1) 東京大学 堀 宗朗 教授

    「大規模計算機を利用した地震動と地震応答のシミュレーション」

    想定外の地震被害を無くすため、地殻・地盤や構造物の詳細な解析モデルを利用した高度な数値解析手法の開発と応用が進められている。非線形の変形や破壊の過程も再現・予測できることが目標となる。本講演では、京計算機のような大規模計算機を利用した地震動と地震応答のシミュレーションの現状が紹介され、将来への展望が述べられた。具体的には、地震動のシミュレーション、構造物のシミュレーション、都市のシミュレーションの3つのテーマについて講演が行われた。地震動のシミュレーションでは、東大で開発された階層型地震動シミュレーションコードMMAとその解析結果が紹介された。構造物のシミュレーションでは、超高層ビルおよびRC橋脚の3次元ソリッドモデルによる解析結果が示された。都市のシミュレーションでは、東日本大震災の事例再現、首都直下地震の事例予測、南海トラフ巨大地震の群衆避難のシミュレーション結果が紹介された。

    (2) 伊藤忠テクノソリューションズ(株) 中村 均氏

    「耐震計算シミュレーションソフトウェアの現状とその利用事例」

    現在、耐震計算や耐震性評価等で利用されている数あるシミュレーションコードの特徴や使われ方を概観し、その利用事例の紹介が行われた。

    地震工学の進歩 に伴い、産業レベルで行われる耐震シミュレーションも次第に高度化し、原子力発電所の耐震検討にもさまざまなソフトウェアが用いられている。地盤と構造物の連成シミュレーション、地震動のシミュレーション、津波シミュレーション、3次元流体シミュレーション、斜面の崩壊シミュレーションなどの事例が示された。最後に、今後の課題として、耐震シミュレーションでは非線形構造解析のV&Vや並列化アプローチの限界、津波シミュレーションの需要拡大に伴う3次元流体解析の計算負荷大やV&Vなどが提示された。

    (3) 東京電力(株) 清浦 英明氏

    「東北地方太平洋沖地震に対する福島第一/福島第二原子力発電所の影響評価」

    NISAへの報告書および意見聴取会でのコメント対応での追加検討等、東日本大震災の本震影響評価の内容と結果の紹介が行われた。

    設計条件と観測記録の比較から、建設時設計条件は、 周期帯によっては基準地震動Ssや今回の地震を大きく上回る保守的な条件であることから、今回の地震は、直ちに安全性が損なわれるレベルのものではなかったことが示された。観測記録を用いた影響評価では、福島第一1~5号機については、耐震Sクラス設備全般について、計算値が評価基準値以内であることを確認したことが報告された。

     

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  • 日本原子力学会2013年春の年会 企画セッション報告

    2013.5.16 桐村 コメント無し

    日本原子力学会2013年春の年会
    企画セッション報告
    「モデリング・シミュレーションの高度化」
    2013年3月28日(木) 13:00~14:30 O会場
    座長 堀田亮年(JNES)
    −    我が国における国産コード開発プロジェクトの紹介 松本昌昭(三菱総研)
    −    国産コード開発におけるV&V 岡本孝司(東大)
    −    V&V の適用と実施の国際動向について 笠原文雄(JNES)

    我が国における国産コード開発プロジェクトの紹介
    松本昌昭(三菱総研)
    平成24年度発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業のひとつであるモデリング・シミュレーションの高度化について紹介された。プロジェクトの背景、開発対象の検討、開発、活用に関する検討が行われた。
    プロジェクトの背景では、本研究開発が必要となった背景が示され、目的や実施内容、今年度の具体的な実施計画、開発委員会の体制等の最新の状況の報告がなされた。開発対象の検討では、国内外の現状を調査しPRODASに登録された国産コードの利用状況の詳細な報告がなされた。また、国外のコードの利用が選択される理由を分析した結果が示された。開発、活用に関する検討では、国内のソフトウェアは開発されても利用が進まないことから、米国での開発、活用を支援する体制を紹介すると共に、国内での開発、活用の拡大に向けた課題が議論された。

    V&Vのための精度保証付実験データ
    岡本孝司(東大)
    原子力安全解析コードの状況を確認し、V&Vのための精度保証付実験データのニーズについて議論した。V&V標準化、国産独自コード開発、V&V用精度保証実験データベースの拡充を課題として挙げ、それぞれの動向についての紹介がなされた。
    V&V標準化では日本国内だけでなく世界中での動向や、原子力分野に限らず産業界での動向も事例を挙げて紹介された。国産独自コード開発については、基盤技術・知識集約としてのモデリング・シミュレーション技術、炉物理解析コード、安全解析コードが紹介された。また、情報基盤の構築として、V&Vデータベースの構築への取り組みも紹介された。

    V&V の適用と実施の国際動向について
    笠原文雄(JNES)
    ASME2012 Verification & Validation Symposiumと、米国での火災解析モデルのV&V(NUREG-1824)について紹介された。ASME2012 Verification & Validation Symposiumは米国機会学会(ASME)の主催で、2012年5月米国ラスベガスで開催され、約200名の参加があった。会合全体としては、V&V標準に基づいたモデル検証、解検証(verification)を行い、その後試験との比較によるシミュレーションの妥当性確認(validation)を実施して解析コードの信頼性を示す方法論はかなり定着していると感じられた。パネルセッションでは、JAEAの鈴木氏からV&Vへの取り組みについての報告が行われた。
    米国での火災解析モデルのV&V(NUREG-1824)は、米国原子力規制委員会(NRC)と米国電力研究所(EPRI)との共著で2007年5月に発表された。リスク情報に基づくパフォーマンスベースの火災防護の裏付けを行うために、火災の結果を確実に予測可能な検証及び実証(V&V)済みの火災モデルが必要であるということからまとめられ、五つの火災モデルの検証と実証(V&V)結果をとりまとめたものとなっている。

     

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  • 【報告】2012年秋の大会での企画セッション

    2013.1.13 コメント無し

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    2012年9月20日(木)  13:00~14:30 M会場 

    座長(JAEA)中島 憲宏

    • 関西大学 高橋 教授
      津波評価および解析手法の現状と課題
    • 電力中央研究所 松山様
      原子力発電所における津波の評価方法
    • 東京電力株式会社 谷様
      東日本大震災の津波再現解析

    津波評価および解析手法の現状と課題
    高橋先生(関西大学)
    津波の発生から襲来までを,「津波の発生」,「外洋伝播」,「沿岸への襲来」に分け,それぞれの局面における解析手法を紹介するとともに,今後の課題が提示された.

    原子力発電所における津波の評価方法
    松山様(電力中央研究所)
    津波評価(想定)に関する歴史,確定論,確率論による評価等の紹介がなされた.今後の評価法に関しては,3次元数値計算の導入や地震以外の発生原因(地滑り等)の考慮が挙げられた.

    東日本大震災の津波再現解析
    谷様(東京電力株式会社)
    福島第一原子力発電所,福島第二原子力発電所における津波の状況の検証結果が報告された.敷地内における痕跡調査結果から,津波の規模を想定し,またシミュレーション結果から当時の状況再現が報告された.

  • 2012年春の年会における合同企画セッションの報告

    2012.4.24 コメント無し

    日本原子力学会2012年春の大会3日目の 3月21日(水) 13:00〜14:30 において,計算科学技術部会と熱流動部会合同セッション「我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後」が開催されました。当日の様子について概要を報告いたします。(資料はリンクからダウンロードできます。)

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    座長の岡本東大教授から挨拶があり,本セッションでは3件の講演がある旨の説明がなされました。

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    本企画セッションには,計算科学技術をどのように原子力の研究開発に役立てていくのかというテーマが根底にあり,シビアアクシデント解析・予測に対して高い関心がもたれている中,多くの聴衆が集まり,講演後にも多くの意見が出されました。

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    (1) 我が国のシビアアクシデント対策の変遷 (東京大学) 西脇由弘氏

    福島事故が起こった背景,要因を考える必要があり,それを踏まえた上で未来への提言が行われた。

    1.AMをめぐるこれまでの議論について

    二段階審査となった背景,TMI事故やチェルノブイリ事故以降の安全審査における日米の対策の差異,90年代における日本のアクシデントマネジメントに対する意識の風化と米国の潮流からの乖離等について歴史的な流れが説明された。その上で,日本における確率論的安全評価への対応の遅れや一貫性の無さが事故が起こった一つの要因であり,また,保安院とJNESの関係についても様々な問題を有していることが指摘された(例えば,規制実施機関と専門性集団の連携不足)

    2. 環境省原子力規制庁の考慮事項について

    福島の事故で明らかになったことは,日本の規制組織(体系)とそれを支援する各団体の構成(枠組み)に問題があるということであり,緊急時対策も不十分で規制機関に専門性が欠けていた事が指摘された。その上で,今後日本の規制を変えるためにどのようにすべきか(どのようなメンタリティを持つべきか)について述べられた。

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    (2) 我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後 (エネルギー総合工学研究所) 内藤正則氏

    我が国における軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後について俯瞰する内容での講演がなされた。まず,シビアアクシデントの定義から始め,日本ではアクシデントマネジメントは電力会社の自主的な対応が期待されており,規制的措置としては要求されていない事をについて指摘があった(外国では規制要求となっている)。また、安全研究の歴史を概観して,日本のSAFE Projectは世界的に見ても先駆的な研究であったが徐々に下火になったという経緯がったことが指摘された。(安全研究は後ろ向きであり,国民の不安をあおり,原子力のアクセプタンスに有害であるという考え方が産業界に多かったためと解説) 事故解析コードの開発は概して欧米では積極的に行われ,日本で開発されたものはTHALES(JAEA)やSAMPSON(NUPEC→エネ総研)がある。1つの問題点として,特定の解析項目が未知である場合に解析条件等の設定をどうすべきかという問題が残る。さらに,これまでの解析コードで福島事故を再現できるかというと難しく,モデル追加あるいは改良を要する部分があると指摘している。また,安全解析コードに含めるかどうかは別として,海水中のNaCl溶融によるアルカリ腐食の問題,および再臨界の可能性について,それが評価できる解析コードの不在を指摘した。

    「SAMPSONコードが使われなくなった経緯は?」との質問に対し,「発電所の裕度を確認するために整備したコードであり,その目的が達成された段階で整備は実質的に終了していた。コードの保守改良が必要であるが,それに対する予算はなく,自主的な対応とせざるをえなかった。福島の解析も十分ではないと認識している。」との回答があった。

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    (3) 軽水炉シビアアクシデント評価技術の課題 (大阪大学) 片岡 勲氏

    シビアアクシデントの基本的な物理メカニズムの理解とモデル化はこれまである程度適切に行われており,福島事故の進展も想定していた通りであった。特に,燃料溶融前後までの現象については,既存コードにて解析可能である。しかしながら、個別の炉についてシビアアクシデントがどのように進むのか、またどの現象が起きて,どの現象が起きないのか評価するには十分ではない。 例えば,燃料棒ヒートアップ挙動については,ギャップコンダクタンスやZr-水反応モデルにおける感度が大きく,炉心の崩壊熱の正確な評価に対してはモデル化の一層の高度化が必要である。また,溶融デブリの冷却メカニズムの把握とモデル化,ソースターム評価において燃料内FPの放出挙動の把握とモデル化等が重要重要である。さらに,デブリ・コンクリート反応挙動や水素燃焼挙動の様に,ある程度の現象把握はできているがまだ分からない機構もある。現状として,個別の現象については評価する技術はあったが,全体的な予測ができないというレベルである。今後は,現象解明にむけて研究とスケーリングが重要である。

    「どのような実験を行うべきか,解析側との協議が必要である。」や「複雑な現象であり精度を上げることが困難な場合がある。」等のコメントに対し「PIRTを作ることが重要。また,V&Vが必要である。」とコメントがあった。

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    短い時間の中で議論は尽きませんでしたが,軽水炉シビアアクシデント評価技術に対する問題点の現時点での総括という意味において,一石を投じることができたのではないでしょうか。今後も本部会における活動を通じて,さらなる議論を展開していきたいと考えます。

  • 2011年秋の大会における合同企画セッションの報告

    2011.10.2 コメント無し

    日本原子力学会2011年秋の大会2日目の 9月20日(火) 13:00〜14:30 において,計算科学技術部会と熱流動部会合同セッション「軽水炉分野におけるモデリング&シミュレーションの国際情勢と我が国の課題」が開催されました。ここでは,当日の様子について概要を報告いたします。(写真はクリックすると拡大します。資料はリンクからダウンロードできます。)

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    座長の山口部会長から挨拶があり,軽水炉分野のM&Sに関する課題抽出と今後の方向性の検討のため,本セッションでは4件の講演後に会場全体でのディスカッションを期待する旨の説明がなされました。

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    本セッションには,計算科学技術をどのように原子力の研究開発に役立てていくのか?というテーマが根底にあり,福島第一原子力発電所の事故の後にシビアアクシデント解析・予測に対して高い関心がもたれている中で,会場には多くの聴衆が集まり,講演後にも多くの意見が出されました。

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    (1) 中国と韓国の情勢 (JAEA)中村秀夫氏

    安全解析分野における韓国と中国の状況に関してについて,両国における研究開発の体制やその特徴について,韓国では産官学で役割分担し,危機感をもって相当のリソースを投入して計画的に研究開発を進められていること,中国は2010年現在の日本に類似した状況下において,新しい研究開発機関を組織し,韓国に倣ってコード開発に注力している状況について詳細に説明がなされました。

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    (2) 米国と欧州の情勢 (テプシス)堀田亮年氏

    科学的合理性に立脚したモデリング&シミュレーション(M&S)によるアプローチを確立し,それらが示す事柄を客観的事実に基づき受容していくサイエンスベースの姿勢がこれまで以上に重要であり,物理モデルや大規模計算機の開発のみならず実験データベースや不確かさを理論をも一体となって発展させるべく,国や組織の枠を超えた連携を必要とするレベルに到達しているとの解説がなされました。

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    (3) 実験データを戦略的知的財産に (東大)岡本孝司氏

    原子力大綱への提言として,社会ニーズの明確化と方向性の明確化の一つとして,モデリング・シミュレーション技術の高度化を挙げ,その中でも独自シミュレーションコードの開発と検証用精度保証付き実験データを我が国の戦略的知財として保有することが重要であることが説明されました。特に,境界条件が明確で追試可能な高次の実験が,CFD検証用の実験データとして非常に有効であることが指摘されました。

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    (4) 今後の安全評価要件と国産の安全解析コードの役割 (JNES)宇井 淳氏(笠原文雄氏による代理発表)

    海外の規制の潮流や福島事故の教訓を踏まえ,想定事故の範囲の拡大とその評価のための解析コードの必要性が高まる状況において,システム解析コードは熱水力試験やスケーリングの検討等の主要な反映先であると同時にその国の安全評価能力が技術力を示す一つの尺度であり,システム解析コードを戦略的に開発する必要があることが指摘された。

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    山口部会長によりM&Sに関する論点について整理された後,全体でのディスカッションに移り,会場からは活発に意見が出されました。

    『規制の近代化が必要。コードに限らず,規制や技術標準の制定が無しに,様々な議論は困難。』『福島事故の背景には,改善が回っていなかったことがある。古いコードが未だに使われ,新しいコードの導入のハードルは極めて高い。』『コード作成自体も大切だが,国際的に認証されることが重要』『コード開発には,初期からユーザを巻き込むことが必要。また,産業界には既にノウハウがあり,それとどのように折り合うかが難題』『作成したコードが許認可されることが大前提。JAEAが中心となって国策として実施することが必要』『コードはユーザフレンドリーであることが重要あり,韓国ではしっかりと考えられている。最後に誰が使うかということを念頭にして開発を行う必要がある。』

    最後に山口部会長から,『日本は何を目標とするのか?現時点で明確に言える人はいないが,それを見い出す必要がある。』と締めくくられました。

    短い時間の中では結論は出ませんでしたが,軽水炉分野におけるM&Sの議論に関して,一石を投じることができたのではないでしょうか。今後も本部会における活動を通じて,さらなる議論を展開していきたいと考えます。

    なお,同日の夕刻に開催された懇親会では,このテーマに関して熱い議論が展開されたことを追記しておきます。