Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 2012年度部会長 中島憲宏

    2012年度部 会長中島憲宏

    2012年度 部会長 中島 憲宏

    (日本原子力研究開発機構)

    2002年9月16日、いわき明星大学における日本原子力学会秋の大会において、日 本原子力学会計算科学技術部会の設立総会が開催された。原子力の研究開発に 計算科学技術が活用される時代を迎え、多くの期待が寄せられた。そして、2011年 度は計算科学技術部会が10年目を迎える記念すべき一年であり、また東京電力福 島第一発電所の事故という厳しい現実に直面する年となった。厳しく容赦のない自 然の脅威の前に、3機の原子力発電所が同時にシビアアクシデントにみまわれ、さら に4機の燃料プールの冷却が阻害され燃料の損傷が懸念される事態があらわれた。 “想定外”と言われるところである。 計算科学技術部会のセカンドディケイドに向けて、今一度、シミュレーションの役割を 考えてみたい。設立総会において、矢川元基初代部会長は、「原子力はその間どち らかといえば基準に基づく設計に終始してきた。基準に基づく設計は、基準というお 手本どおりに設計すればいいのであるからコンピュータをまわす必要もない」と指摘 した。基準というものに寄りかかりすぎると、想像力が欠如し、シミュレーションがただ の感度解析になってしまうのかもしれない。設計基準に書き込めていないところには 十分な想像力を働かせてシナリオのシミュレーションとリスク管理を行い、また専門 家の合意として知見が得られたことがらについては速やかに基準化を行って安全確 保の手順をシステム化するよう努めなければならない。
    シミュレーション技術は、1980年代の原子力のシビアアクシデント研究において大いに 発展した。その当時は、計算機技術を駆使するというテクノロジーに偏重するのではな く、どのようなシナリオが顕在化しうるのかを考え、想像力を働かせ、データをとり、モデ ルを工夫し、シミュレーションを行っていたように思う。シミュレーションの役割は、温度 分布や応力分布、炉心特性や、出力変化を計算することだけではなく、現実に起こりう るシナリオの全体像を描くことであると思う。描いた全体像に対してリアリティをもって対 処していく必要がある。品質に優れた安全解析コードを自前で持ち、シミュレーション結 果の意味するところを吟味できる実験施設を活用し、想像力を駆使してリスクの全体像 を示し、“不確かさの除去”に努めることが、計算科学技術部会が取り組むべきミッショ ンであると考えている。
    ものごとを “想定内”と“想定外”の二分論で論じ、安全を前者の枠に押し込めようとする のは不遜の業であろう。“想定外”に対しては適切なリスク管理が必要である。そのため のシミュレーションであり、想像力を働かせる専門家を育てなければならない。シミュ レーションは汎用性の高い技術である。いろいろな使い方ができる。シミュレーション技 術を“不確かさの除去”のための想像力支援の道具として位置付けるというのはいかが であろうか。歴代9名の部会長のご努力により発展してきた計算科学技術部会の10代 目の部会長を期せずしてお引き受けすることになり、これからどのように進んでいくの か不確かで予測不能であるが、持てる力を尽くしたいと考えています。部会員各位に は、ご支援ならびに建設的なご批判を期待します

    この度、日本原子力学会計算科学技術部会(CSED:Computational Science and Engineering Division)の部会長を務めさせていただくことになりました。本部会は2002年9月16日の秋の大会で創設されました。矢川元基 初代部会長以来、竹田敏一 第二代部会長、岡芳明 第三代部会長、二ノ方壽 第四代部会長、内藤正則 第五代部会長、功刀資彰 第六代部会長、高木敏行 第七代部会長、吉村忍 第八代部会長、笠原文雄 第九代部会長、そして昨年10周年の祈念すべき年の山口彰 第十代部会長のリーダーシップにより運営されてきました。その間、第Ⅲ区分のコード番号313として計算科学技術という専門分野を確立し、平成24年3月14日現在で255名の会員からなる部会へと成長しました。10年という節目の次の1年目、そして東京電力㈱福島第一原子力発電所の事故後の1年目という時期に、部会長を務めることの責任を強く感じています。

    設計工学を専門とされる畑村洋太郎先生は、自身の提唱する失敗学で「起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず、物理的・個人的な「直接原因」と背景的・組織的な「根幹原因」を究明すること」の大事さ、肝要さを論じています。今回の事故を、失敗学に照らし合わせて考えてみます。「過則勿憚改」と失敗に学び、「何を」、「何時」、そして「どのように」改めていくべきかを考え、失敗学の三要素とされる、(1)原因究明、(2)失敗防止、(3)知識配布に、計算科学をどのように組み込めるかと考える次第です。

    計算科学を先導する米国では、DOE(Department of Energy、エネルギー省)が計算科学と計算機科学を総括する呼称として、「モデリングとシミュレーション」という言葉を近年、全面に出して活動しています。モデリングには、物理モデルや数学モデル、工学モデル、数値計算モデル、知識モデル、可視化モデルといった様々なモデルを構築するという意味が含まれており、シミュレーションにはソフトウェアのコーディング、数値計算の実行、効率的演算化、模擬実験、解析作業、入・出力データの作成や可視化まで含めた意味が内挿されています。限りなく進化し、成長し続けているコンピュータとともに、「モデリングとシミュレーション」も生命体のように、その進化を早めているのが、米国原子力分野の現状です。

    計算科学の特徴は、分野横断的かつ基盤的に学術や技術を形成するところにあります。計算科学を活用して、「原因究明」をするためには、様々な対象・現象・挙動を解明し、「モデリング」することから始める必要があると考えます。計算科学を活用して、想定内外の故障や障害等を「防止」するためには、様々な対象・現象・挙動を予測し、「シミュレーション」することから始める必要があると考えます。いわゆる、フロント・ローディング技術として、「シミュレーション」が役割を果たすべきところです。そして、計算科学を用いて、「知識配布」をするということは、分野横断的にあるいは技術基盤を共通課題として、様々な研究者や技術者が集い、「モデリングとシミュレーション」すなわち「計算科学技術」について幅広い交流を広げていくことに他ならないのではないかと思います。このことは、正に、当部会の活動そのものではないかと考える次第です。

    本年度も部会員そして部会運営に携わる皆様と一致協力し、次の一年の一歩を踏み出していけるように、活動を進めていきたいと思います。