Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 2013年度部会長 越塚誠一
    2013年度部会長 越塚誠一

     

     

    2013年度 部会長 越塚誠一

    (東京大学)

     

    この度、日本原子力学会計算科学技術部会(Computational Science and Engineering Division, CSED)の部会長を務めることになりました。本部会は2002年に発足し、その活動の目的は、部会規約第1条によれば、計算科学技術の研究・調査活動を支援し、計算科学技術の発展に貢献することです。部会長として部会の活動に貢献したいと考えております。

     2011311日に発生した東北地方太平洋沖地震と、その影響で発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、原子力を取り巻く状況は大きく変化しました。事故の詳細な事実関係を明らかにし、その直接的原因および間接的原因について深く考察し、それらの反省を踏まえて今後の原子力の安全性を高めていくことが原子力に関係する者に一律に課せられた使命であると思います。計算科学技術部会においても、20126月に発足した日本原子力学会の東京電力福島第一原子力発電所に関する調査委員会に対して、前部会長の中島憲宏氏が委員として参画し、計算科学技術に関する主要な問題点を取りまとめております。それらは、地震動解析、津波解析、放射性物質の大気拡散解析、シビアアクシデント解析の4点です。また、部会の企画セッションとして、2012年春の年会では「我が国におかる軽水炉シビアアクシデント評価技術の今後」を、2012年秋の大会では「津波評価手法の現状とその適用」を、2013年春の大会では「モデリング・シミュレーションの高度化」を開催し、多くの出席者がありました。さらに、2013年秋の大会では「地震動シミュレーションと構造評価手法の現状とその適用」を計画しております。福島第一原発事故において生じた計算科学技術に関する問題点を見渡すと、原子力の安全にとって計算科学技術は必要不可欠であるとともに、技術の進歩が急速であるがために多くの課題が未解決であるという現状があり、福島第一原発事故において問題点として顕在化してしまった、と反省しなければならないでしょう。

     こうした反省を原子力の安全性の向上に生かしていくために、20129月に発足した原子力規制委員会が策定を進めている新安全規制における計算科学技術の役割と課題を考えてみたいと思います。第1は、様々な外的事象に対する解析手法です。新安全基準では外的事象を網羅的に取り上げ、そのうち安全上重要なすべての事象に対して対策が求められており、そのためには様々な外的事象の影響を解析することが必要になります。これまでも、地震動に加えて地震随伴事象として津波と斜面崩壊の対策が求められていたのですが、さらに溢水や火災などに対しても解析と対策が必要になります。第2は、シビアアクシデント解析です。規制要件化されたシビアアクシデント対策に対して、炉心損傷防止や格納容器破損防止などの有効性評価が実施されることになり、具体的には何らかの解析に頼ることになると考えられます。しかしながら、シビアアクシデントに対しては不確かさが大きな場合もあり、設計基準に対する解析コードによる事故解析のようなやり方が適さないことも予想されます。第3は、確率論的リスク評価です。新安全基準である設計基準とシビアアクシデント対策に加えて、「発電用原子力発電施設の安全性向上のための評価」が定期的に事業者によって実施され、規制当局に届け出され、公開されるという制度が作られようとしています。そこでは、継続的な安全性向上に対する事業者の自主的な取り組みが求められています。そして、その有効性は個別の炉に対する確率論的リスク評価によって確認するものとされています。確率論的リスク評価は解析技術の1つではありますが、得られる結果が確率であるという特殊なものです。今後、確率論的リスク評価の役割が大きくなることから、その精度や品質を高めていくことが必要と考えられます。第4は、V&Vです。新安全規制では、原子力安全に対する品質保証が、従来の運転段階だけでなく設計及び工事段階に対しても適用されるようになります。特に、解析に対するV&Vが新たに要求事項として書き加えられることになります。これまで計算科学技術部会において活動してきた「シミュレーションの信頼性ワーキンググループ」の成果が生かされるものと期待しています。

     このように、新安全規制におきましても計算科学技術の役割は大きいだけでなく、今後さらに研究を進めて解決していかなければならない課題が多いことがわかります。原子力学会における計算科学技術部会の役割もますます重要になります。部会員の皆様の積極的な活動によって部会は支えられておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。