Computational Science and Engineering Division, Atomic Energy Society of Japan
  • 第10回(平成24年度)部会賞 贈賞報告

    2013.4.11 桐村 コメント無し
    表彰小委員会委員長 中島 憲宏(日本原子力研究開発機構)
    選考経緯

    部会メーリングリストおよび部会ホームページを通して、本年度部会賞候補者の募集を平成25年1月25日(金)締め切りで行ないました。その結果、部会功績賞、部会業績賞、部会CG賞、部会奨励賞、部会学生優秀講演賞に複数名の推薦がありました。
    推薦者の推薦書、業績(論文、予稿、部会のセッションでの聴講者の評価シート等)をまとめ、平成24年1月30日(水)に表彰小委員会を開催し慎重に審議致しました。その選考結果を同日開催された部会運営委員会にお諮りし、最終的に、部会功績賞1件、部会業績賞2件、部会CG賞2件、部会奨励賞1件、部会学生優秀講演賞2件を決定させていただきました。その結果は以下の通りです。

    部会功績賞

    計算科学技術分野において幅広くかつ顕著な貢献のあった個人を対象とし、毎年1名以内とする

    受賞者名: 笠原 文雄 氏((独)原子力安全基盤機構)

    業績名 :「軽水炉と高速増殖炉に関する安全解析と事故解析技術への貢献」
    (英訳)Contribution to the development of safety analysis and accident analysis on LMFBR and LWR

    贈賞理由:

    笠原文雄氏は、計算科学技術部会の創設に貢献されるとともに、2005年度~2010年度の6ヵ年、計算科学技術部会の運営委員、運営委員長、副部会長(主に企画小委員会委員長)として長年活動されてきた。2010年度に計算科学技術部会長となり、部会提案のシミュレーション技術のあり方を検討する活動「シミュレーションのValidation(確認)とVerification(検証)」を企画し、他部会と連携しながら、その標準化活動への道を開いた。また、国際会議、シンポジウムやワークショップへの部会共催に尽力された。更には、2007年度~2009年度の3ヵ年、部会等運営委員会委員として、2008年度~2010年度の3ヵ年、熱流動部会と共催し、Dr.フォーラムを計算科学技術部会として指揮され、原子炉熱流動と安全に関する日韓シンポジウム(NTHAS7、NTHAS8)の技術委員会委員を歴任された、原子力学会活動への寄与として、原子炉熱流動国際会議(NUREH13)の技術委員会委員や第19回原子炉工学国際会議(ICONE19)の技術委員長、等、原子力学会が主催、共催した多くの国際会議に貢献された。

    部会業績賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:越塚 誠一 氏(東京大学大学院)

    業績名 :「粒子法に関する研究とその計算科学技術への展開」
    (英訳)Researches on Particle Method and Spreading in Computational Science and Engineering

    贈賞理由:

    越塚誠一氏は非圧縮性流れを解析できる粒子法としてMPS(Moving Particle Semi-implicit)法を独自に開発し、これまで気液二相流、沸騰、炉心溶融、蒸気爆発、溶融炉心コンクリート相互作用、液滴衝撃エロージョンといった原子力分野の様々な問題に適用してきた。こうした一連の成果はレビュー論文としてまとめられており、さらには船舶や防災などの原子力以外の分野にも粒子法は広がっている。

     

    受賞者名:大島 宏之 氏(日本原子力研究開発機構)

    業績名 :「ナトリウム冷却高速炉に特有の熱流動現象のシミュレーション技術の高度化」
    (英訳)Improvement of Simulation Technology for thermal-hydraulics specific to sodium-cooled fast reactors

    贈賞理由:

    大島宏之氏は、ナトリウム冷却高速炉に特有の様々な熱流動現象の数値解析技術を開発及び検証を行い、本分野におけるシミュレーション技術の高度化に大きく貢献し、世界をリードする研究業績を挙げてきた。大島氏は、炉上部プレナムにおけるガス巻き込みに関して数値解析技術を駆使してガス巻き込み発生防止基準を策定し、設計者にとって有用な研究業績を残し、この高速炉熱流動設計分野における貢献は大きい。また、ナトリウム水反応現象に対して、シミュレーション技術をミクロなレベルからモデル開発を行い、基礎実験による検証を重ねて、複雑な過渡挙動のメカニズム解明を可能にした。その他にも、炉心部のサブチャンネル解析技術、炉心変形時の熱流動解析技術、炉上部プレナムにおけるサーマルストライピング、温度成層化などの数値解析コードの開発に携わり、ナトリウム冷却炉に特有の熱流動解析技術の発展には同氏の業績なくして語ることはできない。

     

    部会CG賞

    原子力の計算科学技術分野において結果の表示・可視化について優秀な業績のあった個人またはグループ(連名)を対象とし、毎年2件以内とする。

    受賞者名:中瀬 正彦 氏(東京工業大学)

    業績名 :「液々向流型遠心抽出器内の油水分散流動のダイナミック可視化」

    贈賞理由:

    中瀬正彦氏は機械工学出身であることから博士論文のテーマとして遠心抽出器の開発を行っており、抽出器内の複雑な油水流動の可視化に取り組んでいる。従来のテーラー・クエット流の数値解析では油水体積割合を均質化して解析された例しか報告されていなかったが、中瀬氏はANSYS FLUENTを用いて界面挙動を追跡可能なモデル(VOF)を導入し、世界で初めてテーラー渦内部の油水分散挙動を解析した。更に解析結果を効果的に表現するために、開発者向け汎用可視化コードAVS Express/devを用いて可視化アプリケーションの作成を自ら行い、油水界面挙動と流れの物理状態が効果的に表現された流動の可視化に成功した。これによってアスペクト比が小さく流路も歪曲しているような複雑な(見にくい)体系でも効果的に可視化できるようになった。更に最近では油水流動の解析のみならず、油水間の物質輸送現象の解析を試みるなど、挑戦的な課題にも取り組んでいる。こうした研究は同世代の学生ばかりではなく一般研究者の研究成果としても優れたものであり、将来の計算科学分野を支える若手研究者として大いに期待できる人材である。

     

    受賞者名:宮村 浩子 氏(日本原子力研究開発機構)

    業績名 :「大規模データの特徴領域抽出アプローチ」

    贈賞理由:

    宮村浩子氏は、原子力分野における膨大なシミュレーション結果から、解析すべき特徴領域を一目で発見できる可視化技術、発見した領域の部分モデルを抽出する技術、および抽出した部分モデルを詳細に可視化する技術を組み合わせることで、スーパーコンピュータ上のシミュレーション結果を解析者の手元で自在に可視化解析する枠組みを考案した。また、実際にテラバイト規模の原子力施設の耐震シミュレーション結果に本枠組みを適用し、微小な応力集中領域の発見、可視化に成功した。宮村氏の提案した技術は汎用性が高く、今回提示された可視化結果に限らず、大規模・複雑データを扱う実験の解析等にも利用可能であり、大きな役割を果たすことが期待できる。

     

    部会奨励賞

    計算科学技術分野において顕著な学術または技術上の業績のあった40才程度まで(平成23年3月31日において)の個人を対象とし、毎年3名以内。

    受賞者名:櫛田 慶幸氏 (日本原子力研究開発機構)
    業績名 :「原子力分野アプリケーションにおける数値計算アクセラレータの効率的利用法」
    贈賞理由:
    櫛田慶幸氏は、原子力分野における大規模シミュレーションのうち、実験や観測と連携をとる必要があるために時間的制約が厳しく、高いスループットを必要とするアプリケーションについて、高い演算性能や価格性能比を持つ数値計算アクセラレータの利用法を確立し、必要とされる要件を満足する実行性能を実現した。これにより、数値計算分野のみならず、核融合実験や包括的核実験禁止条約準備機関(CTBTO)の課題解決にも貢献した。核融合プラズマ安定性計算では、当時非常に高い価格性能比を実現していたCellプロセッサを用い、また、局所化完全LU前処理付き共役勾配法というCellプロセッサのアーキテクチャを活かしたアルゴリズムを開発し、プラズマの安定性計算を2秒で計算を完了することができた。放射性核種大気輸送計算および大気微気圧振動計算では、より収束性の高い頑健なアルゴリズムを導入するとともにGPGPUの特性を活かした処理の高速化を行い、放射性核種データの更新頻度である一日以内で必要な計算を終了することができるようにした。大気微気圧振動計算では、GPGPUを用いることで簡易計算の一つであるRay-trace法よりも高速化することができ、シミュレーションの信頼性向上に寄与することができた。

     

    部会学生優秀講演賞

    計算科学技術分野において、他の模範となる講演を行った学生を対象とし、毎年4名程度とする

    受賞者名:中瀬 正彦氏 (東京工業大学)
    業績名 :「VOF モデルによる液々向流型遠心抽出器内の油水分散流動解析」
    贈賞理由:
    中瀬正彦氏は核種分離などの少量生産プロセスに適した「テーラー渦誘起型遠心抽出器」の開発に取り組み、大きな成果を得た。この抽出器は回転円筒と静止外筒の間の円環部に油水を向流で流すと向流多段効果により、一台で数台分のミキサ・セトラに相当する抽出性能を発現し、高効率少量生産が可能である。中瀬氏は当初、研究課題として装置内の複雑な油水流動の可視化を選び、VOF法を利用した数値解析により連続相(水相)に形成されるテーラー渦列中を浮上する油相の分散挙動を明らかにした。更に、この知見を基に油水間の物質移動現象を研究し、対象とする金属の有機金属錯体形成に伴う油相物性の変化などの化学的知見を取り込むことで装置設計コード開発の基礎の確立を試みている。これらの研究成果は同年代の博士課程学生と比較して特出したものである。また、中瀬氏には化学と流体の異分野を統合した博士研究を進めたいとの希望が有り、化学・化学工学系の再処理部会と共に数値解析の専門家が多数所属する計算技術部会での発表に挑戦した。その結果、数値計算技術だけでなく可視化アプリケーションの開発も自ら行い可視化技術を発展させ、抽出器内の複雑な油水流動を学会の講演で明解に説明することができた。

     

    受賞者名:恒吉 達矢氏 (名古屋大学大学院工学研究科)
    業績名 :「流れ加速腐食の数値的研究」
    贈賞理由:
    恒吉達矢氏はT字管を対象とした、流動加速型腐食を数値的手法に基づき考察した。計算はRANSを用いた定常計算をまず行い、腐食が最も進むと予測される部位(枝管と主管との接合部)を明らかにした。この部位では、馬蹄形渦などの形成に伴う非定常流が顕著となるため、RANSの計算には信頼性に問題がある。そこで、LESによる非定常計算を行い、考察を行った。また、角部での剥離挙動を正確に計算できないことを避けるために、テーパを施し、その影響を調査した。これら詳細な方法論およびその結果の考察は、候補者独自のアイデアによるものであり、高い素養と今後の進展が大いに期待される。流動加速型腐食は、室内実験からのアプローチが難しく、数値計算手法による新たな進展が予想される。

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